デジタルタトューとは?~投稿のリスクと対策について~
SNSは私たちの生活になくてはならないものとなりました。コミュニケーションツールとして、情報収集ツールとして、またインフルエンサーなる職業も登場しました。企業にとってもマーケティング戦略としてビジネスの在り方も変えてきました。
ただ、SNSが起因とする社会問題も発生しています。デジタルタトゥーという言葉を耳にしたことはないでしょうか。SNSの使い方次第で人生が狂うかもしれないそんなデジタルタトゥーについてです。
デジタルタトゥーとは
デジタルタトゥーとは、Digital(デジタル)とTatoo(入れ墨、タトゥー)の2つの単語を組み合わせた造語で、デジタル情報がSNSやブログ、検索エンジン上に残り続けてしまうことを意味します。発言や画像、動画が残ることを、一度入れたら完全に消すのが難しい入れ墨に例えてデジタルタトゥーという言葉が生まれました。
情報をアップした、もしくはアップされて閲覧数が伸びたときは問題がなくても、あとあとになって問題になることに気付いていくこともあり、自分では容易に消せないところが問題になっています。
また、デジタルタトゥーの恐ろしさは、一度公開した投稿を自分の力だけでは完全に削除することができない点にあります。一度拡散されてしまった投稿がどの範囲まで広がっているのかを把握しきれないためです。個人のスクリーンショットによって保存されていたものが再び世に出てくるケースも多くあります。このように、一度デジタルタトゥーを起こしてしまうと半永久的に得体の知れない誰かに怯え続けることになってしまいます。
デジタルタトゥーの種類・リスク
デジタルタトゥーと言っても、様々な種類があります。
個人情報
デジタルタトゥーとなる代表的なものとして氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報があります。個人情報がインターネット上に残ると個人や家族のプライバシーが侵害される可能性があります。
SNSでは、気軽に発信できるため意図せず個人情報を挙げてしまうことがあります。例えば住所(県名や市区町村)や職業、顔写真、人間関係などが含まれる投稿です。また、生活圏内で撮った写真や動画から、大体の住所や職場または学校を特定される可能性があります。何気ない投稿でも個人情報が隠れている場合もあり注意が必要です。
個人情報の掲載から身元や職場が特定され、デジタルタトゥーとして残り続けてしまうと、犯罪や迷惑行為など、さまざま事件へ発展する恐れがあるため、個人情報の掲載については慎重に判断しなければなりません。
誹謗中傷・デマ
実際の人間関係がギスギスしていたりすると最近では、SNSや掲示板で悪意のある書き込みや画像を投稿される可能性もあります。また、根拠のないデマ情報が含まれている可能性があります。誇張したくなるのでしょうね。
それが拡散されることによって、多くの人の目に長期にわたりさらされ続けることになります。その結果個人や家族の社会的立場が損なわれる恐れがあります。内容が真実でなかったとしても、多くの人の目に止まってしまうようなインパクトのある情報はネット上では一瞬で拡散されてしまいます。
悪質な誹謗中傷については、投稿者を特定し、法的な手続きが取られる場合があります。匿名だからといって特定されないわけではありませんので、社会的責任を追及されることがあります。
そのため、誹謗中傷やデマを流す側になることもデジタルタトゥーとして残る可能性があります。よって誹謗中傷する加害者側にとっても、誹謗中傷された被害者側にとっても、どちらもデジタルタトゥーとなる可能性があります。
犯罪歴
犯罪歴もインターネット上に残るデジタルタトゥーになってしまうことがあります。犯罪は犯さないようにすればよいところではありますが、問題は実際には無実だったという場合でも、逮捕されたという情報は残ってしまうことです。
逮捕後に不起訴になれば有罪にはならず、前科もつきませんが、ほとんどのニュースでは、犯罪情報や逮捕時の情報を実名で報道しています。そしてそれが冤罪だったとしても、その事実は逮捕時ほど大きく報道されることはありません。インターネット上でも逮捕にピックアップして拡散される場合が多く、多くの人に誤解を与えたままになるリスクが高くなります。
報道されていない個人情報でも報道情報を基に特定して投稿する人も登場し、家族や周りの人に迷惑が及ぶ可能性もあります。
不適切な行為・発言
不適切な行為や発言がデジタルタトゥーとなる場合があります。
近年では迷惑系YouTuberなど過激な人の方が注目を浴び、有名になりやすいといった傾向があります。そのため暴力的な発言、過激的な行為をする人もいます。
また、飲食店での悪ふざけや迷惑行為をSNSに投稿し拡散され、大きく炎上してしまうことが問題になっています。飲食店内での共用部品などの不適切な利用などが挙げられます。見る側が不快感を抱くなど問題視される投稿は瞬く間に拡散され、個人の特定などが行われ個人の人生が大きく影響します。
リベンジポルノ
リベンジポルノとは、別れたパートナーや恋人が復讐のために過去に撮影した相手の性的な写真や動画をインターネット上にアップすることです。自身のセンシティブな内容であり、精神的な苦痛を与えられます。また、家族や知人、学校、職場への身バレ、将来の結婚への影響など社会生活に多くの影響を与えます。
リベンジポルノの場合、日本語の通じない海外のサイトにも拡大され、知らないところに残っていることもあります。
親しい関係だからといって、軽い気持ちで性的な動画や画像の撮影を許可するのは避けるべきです。
デジタルタトゥーの消し方は?
デジタルタトゥーは悪い影響を与えることを紹介しました。
被害が出る前に削除したいと思うでしょう。しかし、拡散が進んでいたら正直完全に削除することは困難でしょう。デジタルタトゥーが広がってしまったら、どのような対応をすべきか、どこに相談すればいいのでしょうか?
投稿した情報の削除
自身で投稿したデジタルタトゥーは早めに削除することです。SNSの場合、投稿した本人が削除することができます。
個人情報などが入っているだけの拡散性が弱い投稿については自身で削除しただけでも有効です。
しかし、ネガティブな情報やデマなど拡散性が強い投稿については広がった範囲を特定することが困難であるため、自身で削除しただけでは有効とはいえません。すぐに削除したもののスクリーンショットなどが拡散し続けられる可能性があります。そのため、拡散された投稿まで削除するには専門の知識を持った機関に依頼することがもっとも有効です。
書き込みの削除依頼を出す
自分で削除できない場合は、コンテンツの管理者に依頼したり、法的手段によって削除できたりする場合もあります。
サイトの削除申請フォームや運営会社に対して削除を依頼することができます。削除の申請方法などは明記されているパターンもあります。SNSの場合、比較的容易に削除を依頼することができますが、ブログやウェブサイトで、書き込みをした本人が削除に応じない場合や、サイトが閉鎖されている場合は、削除が難しいことがあります。
削除に応じてもらえない場合は、個人で対応するには限界がありますので、次に書く弁護士などの力を借りて法的措置をとっていく方がよいでしょう。
しかし、投稿が拡散されている場合、削除しても、すでに多くの人がその情報を閲覧しておりスクリーンショットを取っている可能性があるため、完全に削除することは難しいでしょう。
誹謗中傷対策業者に相談する場合は非弁行為として違法であると判断されるケースがあるため注意が必要です。
削除をサポートする機関に相談する
ネット上の書き込み削除を支援する相談窓口として、「一般社団法人セーファーインターネット協会」が運営している「誹謗中傷ホットライン」や「セーフライン」があります。
「誹謗中傷ホットライン」は、ネット上で誹謗中傷に晒されている被害者からの連絡を受け、コンテンツ提供事業者に、各社の利用規約に基づき削除等の対応を促す通知を行ってくれます。
誹謗中傷の連絡をおこなうのは原則本人ですが、児童の場合は保護者や学校関係者も可能で、利用は無料となっています。立場の弱い私人や個人商店等が対象で、著名人の方は断られることもあるとのこと。
2023年には削除対応を促す通知を行った結果、約6割の誹謗中傷情報が削除されました。
「セーフライン」は、国民から提供を受けた情報をガイドラインに照らし「違法情報」「有害情報」に分類し、国内外のプロバイダに対して迅速な削除措置を要請してくれます。違法情報に分類される具体例としては、いじめの画像や動画、リベンジポルノに該当する画像や動画、児童ポルノ、わいせつ物、売春目的の誘引、規制薬物などです。またフィッシング行為や不正アクセスを助長する行為についても対象とされています。
弁護士に相談する
弁護士が、運営・管理者への削除依頼や法的手続きを行ってくれます。費用は掛かりますが弁護士に依頼して代理での削除を行ってもらう方が効率的です。
個人で依頼しても削除してもらえない場合には「送信防止措置依頼書」を作成しサイト管理者に送るという方法がありますが、侵害されたとする権利や理由を書く欄があり、専門的知識を持った人にお願いする方がよいでしょう。
「送信防止措置依頼書」は、書き込みがされたサイトの管理者や運営者に対して、プロバイダ責任制限法という法律で定められている「送信防止措置」という手続きを利用して書き込みの削除を行うことができます。
プロバイダ責任制限法は、インターネット上での誹謗中傷や権利侵害などの問題に対処するために制定された法律です。一定の強制力がありますが、プロバイダ責任制限法が適用されるためには「権利が侵害された場合」に限られます。
権利侵害と明確にいえないものについては「送信防止措置依頼書」の効力はありません。サイト管理者が権利を侵害していないと判断すれば、削除は行われないでしょう。
また、明確な権利の侵害があるのに投稿を削除されない場合には、裁判所に削除請求を行ってもらえます。
裁判所に請求をすると、判決を待っている間にも被害が拡大すると判断した場合には「仮処分」を行ってもらえることがあります。
仮処分を受けると即座にネット管理者に削除請求でき管理者側も即座に対応してくれるケースがほとんどで、スピーディーにを削除できるでしょう。
デジタルタトゥーへの対策
デジタルタトゥーが恐ろしい事態を招くことはご理解いただけたかと思います。なかなか削除しきれないという点がとても厄介です。
紹介してきたデジタルタトューの種類は自身の問題だったり他者によるものだったりします。まとめると以下のようになります。
発信源 | 自分 | 他人 |
---|---|---|
自分に非がある | 他人への誹謗中傷や迷惑行為 | 犯罪歴 |
自分に非がない | 個人情報を含む投稿 | リベンジポルノや個人情報の流出 |
この中でデジタルタトゥーの対策できることとしては、自身が発信源になるような投稿になります。また、以下の内容に注意することによって全体的な抑制につながる可能性はあります。
ネットリテラシーを身につける
まずはインターネットの仕組みをしっかりと理解しましょう。インターネットを正しく安全に使うために必要な知識を「インターネットリテラシー」や「ネットリテラシー」と呼びます。
すでに日本のほとんどの人が、インターネットを利用しています。これからの時代、ネットリテラシーは、インターネットを使う上で身につけなくてはならない常識といっても過言ではありません。デジタルタトューに限らず身につけておくべきです。
同様にインターネットを使う上ではセキュリティについても意識する必要があります。アカウントが乗っ取られたりすれば流出する危険があります。
また、デジタルタトューが発生した場合の対処法について知識を持っておくことも重要になります。
匿名でも発言には注意する
炎上するような内容を発信しないようにしましょう。匿名だから大丈夫というものではありません。過激な発言や不適切な写真や動画を公開すると、匿名アカウントでも法的な手続きを踏んで情報開示請求をすれば、どこの誰が発言したか特定できるからです。結果として、名誉毀損や誹謗中傷などの法的トラブルに発展する可能性があります。
普段、他人とのやり取りでは言えないような過激な発言や誹謗中傷などは、インターネット上であったとしてもしない方が身を守れます。加害者にならないためにも感情的な状態では投稿を控え、冷静に投稿するべき情報なのかどうか見直し、情報の発信元や根拠を見極める必要があります。
過激的な発言でなくても自分が思っていたのとは異なる方向に理解されてしまい、炎上につながる可能性もあります。
また、投稿を閲覧できる範囲を限定したり、プライバシーの細かい設定をしたりするから安心というわけでもありません。設定が上手くいっておらず全世界に公開してみたり、設定自体はきちんとされていてもそれを見た人が全体へ公開するリスクがあるためです。
個人情報やプライバシーに関する情報を公開しない
デジタルタトゥーの多くは、個人情報やプライバシーに関する情報によって引き起こされます。個人情報だけでなく、自宅や学校など個人の居場所の特定につながる情報を安易に公開しないようにしましょう。
普段そのような投稿をしていても何も問題が起きないって?確かに問題は起きないでしょう。しかし、何かのタイミングで不適切な発言を行ってしまった際に、その投稿の拡散とともに、過去の投稿も多くの方に閲覧されてしまいます。そのためにも普段の投稿に個人情報やプライバシーに関する情報を載せないように気をつけるようにしましょう。
特に写真を投稿する場合には危険要素をしっかり押さえておく必要があります。
- 自宅周辺や生活圏内がわかる投稿はリスクが伴う
- 友人や家族が写っている写真も、本人の許可なく載せないようにする
- カメラの位置情報の設定をオフにする
最後のカメラの位置情報についてですが、写真に位置情報を埋め込むことができます。どこで撮ったものなのかを見返すときに役立つ機能ですが、個人情報が特定されやすくなります。
まとめ
デジタルタトューはさまざまな種類、経路があることを紹介しました。悪質なものから何気ないものまであり、いつ巻き込まれるか分からない恐ろしいものです。
SNSがこれだけ普及した今、関係ない生活を送ることが困難になりました。正しい知識を得て冷静に判断することで、デジタルタトューを回避、又は抑制することができます。
今までの投稿を見返し、整理するなどしておくこともよいでしょう。
参考リンク
ネットの誹謗中傷 | セーファーインターネット協会 Safer Internet Association(SIA)
セーフライン(Safe Line) | 一般社団法人 セーファーインターネット協会 Safer Internet Association